http://wired.jp/2013/09/11/apple-annoucements/
偉大な創業者が築いた会社を、その製品を、サービスを受け継ぐ立場の人には多かれ少なかれのしかかる重圧だろう。
それがIT界の孤高のカリスマであるスティーブ・ジョブズの後をみるものならば並大抵ではない。
ジョブズはその経営に対する姿勢から、後継者を育成しにくく、また本人もそのことを自覚していたのか後継者を仕込むような積極的な動きはみられな かった。
だからこれはジョブズ生前から心配されていたことだ。
考えてみれば今のアップルの未来を巡る憶測とウォール街の反応はそれを裏付けているだけであり、何ら新しい情報をもたらしてはいない。
集合知が組織にあっていかに重要かということは組織論的には様々に取り沙汰されている。
個々のノウハウが特定の個人に依存している、いわゆる属人的といわれる状況は人の入れ替わりやチームでの活動を前提とする企業活動の場ではマイナ スに働くことが多く、たいがいは好ましくないとされる。
しかしアップルという会社はそういう組織ではなく、おそらく組織の形はとっていてもコンセプトはジョブズという一個人が紡ぎだすものであり役員社員一同 はそれを実現するためのツールのように機能する、云わば集合知を否定したとこ ろでその存在価値を高める会社だ。
ジョブズのアイデアを具現するための小規模の事業をそのまま拡大した形態の企業のまま成長してきたといえる。
その中心にいた彼ジョブズがいなくなれば組織のコンセプトは失われ動力源は遅かれ早かれエネルギーを消耗していく。
これはこの組織の性格上避けられない事態である。
前回のMacBookAirのマイナーチェンジ、今回のiPhone5S、5Cの発表が示す通り、 先駆者が残した遺産ではこの先付加価値を維持し ていくことはできないことはおそらく明白だろう。
そして長年にわたり世間をサプライズの渦に巻き込んできた魔法ももう存在しない。
ジョブズの作った器であっても、この器は以前と同じようには機能しない。
これからのアップルのゆく道を舵取りできるマネジメントが必要なのであり、 クックCEOが代役を努められるか否かということはポイントではないはずだ。
株価が下がったとはいえ、同社が巨額の資産を保有していることには間違いないわけで、この潤沢な資金力を使ってジョブズに成し得なかった組織の生まれ変わりを図ることが急務だとすれば、今回の製品発表のような着実な路線はあなが ち大外れとはいえないというのが私の感想だ。
新機軸の製品を華々しく送り出すことより専ら取り組むべきことが彼らにはあるのだ。
しかし、そのまま何年も組織の変革を待って停滞を続けていくことは許されない。
長年にわたり噂に登りながらも都度都度実現しなかったDocomoとの連携はそうしたアップル側の事情の変化を表しているように思う。
日本における最大キャリアでのシェアに割り込むことでより多くの製品を世に出していくことで、見た目より使用感による付加価値の再発見がひとつの狙いだろう。
周囲が彼らに赤信号を灯した今からが自力の見せ所になるはずだ。