雨が降るときを思い出してみよう。
そろそろ来るぞ、と思ってはいるが一向に降ってこない そんなときだ。
ついグズグズしてるうちに、あるいは帰宅まであと数十メートルというところでどっと降り出すことがある。
哀れ大粒の雨に一瞬でずぶ濡れだ。
さて、この雨の降り出すタイミングを我々は事前に知りうるだろうか。
この書は、このような予測の難しい現象を人間行動の面で分析しようとする試みを綴ったものだ。
その内容は一見散漫にあちらこちらへと彷徨う。
FBIに執拗に尋問されることを逆手にとって自分の全行動をネットに公開する男。
ドル札の行方を調べる実験的なシステムの結果。
”私”が一日にメールをする回数とその頻度。
アホウドリの移動パターン。
さまざまなエピソードを分断するように
16世紀初頭のハンガリーでの農民の反乱の事件のエピソードが挿入されている。
ドージャ・ジェルジュの率いた十字軍が農民の反乱となり、サポヤイ・ヤーノシュがこれを鎮圧した。
果たしてハンガリーの王国はついにオスマン帝国へ対抗するする術を失ってしまうきっかけとなったハンガリー史の有名な一幕だ。
農民を集めて十字軍を組織しオスマンに対し攻撃を仕掛けようとしたが、その農民達が王国に叛旗を翻すことを当時の支配階級の誰もが予測していなかった。
十字軍を強引に推進しようと画策するバコーツ枢機卿に対し、未来を予見し反論したテレグディ、彼が唯一それを予期できた人間である。
テレグディの予測はどうして可能だったのか、その謎が各エピソードの伏線となっている。
その謎解きは本書にまかせるとして、さて問題は人間行動のバースト性である。
消費者行動などでも似たようなことがある。
ずっと低調だったのに、ある時爆発したように人気が出て売れる商品があったりする。
このパターンを熟知し推測することはすなわち現実の成功と密接に関連がある。
勘や経験に頼るのではなく、現状のデータから未来が導き出せるという考えの元、多くのデータの分析をしつつ関連性を探っていくという手法がある。
今はこのようなデータの処理をビッグデータと呼ぶ。
名前が表すようにデータのサイズは巨大である。
ペタバイト級の膨大なデータを処理するために、通常のシステムでは性能的にも容量的にも全く歯が立たない。
こうした処理に特化したシステムが徐々に開発されてきているのが今の状況だ。
分析の手法などもAmazonが行っているアプローチ(「おすすめの商品があります」というあれ)がメジャーだが、様々なものが今後は出てくると思う。
こうした仕組みが一般化して、あらゆる企業が利用するようになる時代がもう到来しているといっていい。
ビッグデータが世の中に広がる、まさにバーストする際に最も気をつけなければならないのはプライバシーだ。
個人情報の保護などということをいっても有名無実の状態になっている可能性がある。
あなたの本名は知らなくても、住んでる場所も年齢も職業も家族構成も趣味も過去数年間で購入した商品も全てわかってしまう。
それに加えて政治的な考えや宗教までもまる見えになってしまうのだ。
画像処理の精度の向上により、ネット上のどこかにアップされているあなたの顔写真の骨格などから、それに一致する画像をあなたの顔の画像と判断することも可能になってきている。
ビッグデータの成長によって広く世界に氾濫することになる私たちの情報は今のままでは無防備だ。
データの管理方法、セキュリティ、リテラシーについても大きなパラダイムの変革が求められることになるはず。
便利だけど住みにくい、そうした時代の到来をヒシヒシと感じる。