前回の「オフショア開発の意味・効果とは」の続き。
2 オフショア開発の意味・効果とは(その2)
リソース
日本国内に目を向けると、エンジニアの絶対数は少なくとも増加傾向にはなく、必須となるテクノロジーをキーにエンジニアを探す場合など結構苦労するという話を よく耳にするようになった。
増してや一まとまりの開発チームともなると、これを組織的に調達するのは現在では難しくなった。
請負う側の企業にも事情はある。昔のオンラインシステムのような超巨大開発案件がなくなった今、数十人以上の規模でプロジェクトを組織することなど珍しくなった。中小ソフトウェア企業は小規模案件体制にシフトしている企業も多いと思われる。大規模プロジェクトを組む時代は既に終わっているのだ。
とはいえ、ソフトウェアプロジェクトが開発のピークに多くのリソースを必要とする特性は昔と同じなので、しばしばまとまった規模のリソースが必要になるわけだ。
また、国内エンジニア単価のデフレ現象の影響もある。できるだけコストをかけずに案件を受注しこなしていこうとすれば経験のない人材も躊躇わず投入して使っていかなくてはならず、下がり続ける相場は品質面のリスクを増大させる。発注する側からいえば、良質なエンジニアをアサインすることが難しくなっているといえる。
そうした人材調達難に対する回答として途上国へのオフショア開発があるといえる。
先駆となった中国やインドは人口数億~十数億の規模を持つ国であり、エンジニアになる人材の割合がたとえ低かったとしても分母が大きい分、相当な規模の人材調達市場が広がっている。
さらに、インドの例でこの業界が手っ取り早く稼ぐ道であるということで国がIT技術の振興に力を入れている。
技術系の学校・大学を整備し、外資の企業を産学に直結させ毎年大量のエンジニアを社会に送り出している。
日本や米国などITの先進国ではIT技術者の数はほぼ横ばいである。日本では50万人、米国では160万人を超えるといわれているが上記の国々は日本の十数倍の規模の学生が毎年業界に参入し200%を超える成長率を誇る。
このようにして、人口規模で圧倒的な国では国内では困難な10人、20人といった規模のプロジェクトチームが比較的簡単に組織できるわけである。
ヴェトナムはインド、中国には人口規模では遥かに及ばないが、人口構成比でみた場合生産年齢人口が60%超と、豊富な労働供給力があることには変わりない。
もちろん、他の新興国にも同様のチャンスがある。今後はオフショア委託先の候補は世界に拡大すると考えるべきだ。
また、インド・オフショア開発ビジネスの発展の鍵は主要クライアントである米国との時差である。米国が夜の時間帯にインドは昼の時間となるために 24時間ノンストップで仕事ができたことがインド企業に多くの恩恵をもたらした。
たとえば日本にとっての昼夜逆の地域となると南米かアフリカ西岸あたりになるだろうか、そうした国とのパートナーシップが将来実現する可能性はある。
だが、いいことばかりではない。そこには落とし穴がある。どんな局面も人海戦術で何とかなるという間違った「銀の弾丸」を信じるマネージャがいる とマイナス効果をもたらしてしまう。状況が悪化に伴いリソースの数で対処しようとすることで状況は改善しないばかりかコストも大幅にアップしオフ ショア開発の利点がまるで生かされない。諸刃の剣であることを肝に銘じなければならない。
ともあれ、ソフトウェア開発における健全な流動的人的リソースの投入を実現する上で、オフショア開発は今後マストな仕組みになるはずである。
上流と下流の分離
ウォーターフォール的発想に基づき、一般的に開発工程の設計にかかる工程は上流と呼ばれ、製造工程以降は下流と呼ばれる。
上流工程 | 基本設計、詳細設計 |
下流工程 | 製造、試験 |
上流工程にはシステムの基本部分の検討が含まれており、プロジェクト全体を左右する事柄を決定するためコンサルティング会社が参画したりすること はあっても外注というのは基本的に行わない。
上流工程を経てほぼ全体の機能から各コンポーネントの詳細へと設計が行われる。
この成果物を受けて実際にモノを作るのが下流工程ということになる。
オフショア開発で外部企業に委託する場合、いきなり上流工程に参加させたりすることは通常ない。
まずは是非なく下流の製造工程ということになる。
理想的なサイクルを想定すると、上流工程で設計した内容を下流工程に渡す、つまりオフショア委託先に渡すと、手を離れた設計者たちは別の製品やサービスの検討を始める。
オフショア委託先での製造が終わったらまた設計の終わった次のシステムが製造される。
設計者はずっと設計の現場におり、製造は外部でフレキシブルな体制で行われる。
設計者サイドはより高度で付加価値のある次代の製品やサービスを構築するための頭脳として稼動し続けることができる。
企業にとって、これは大きなアドバンテージになり得る。
通常エンジニアは最初のプロジェクトを終える頃には「こうしたらいいんじゃないか」という改善・発展のアイデアを少なくとも2つや3つは持ってい る。
下流工程を分離することで、そのアイデアを次のプロジェクトに生かされる仕組みを作ることが可能だ。
ただし、このような分業は時間の経過とともに変化するものだ。
最近では従来開発のみオフショアで請け負っていたベンダが設計工程に参加することも珍しくない。
スキルと知識のレベルが上がれば自然な流れといえる。
今後設計という上流工程作業さえオフショアに流れていく可能性は否定できない。
企業のグローバル化
数々の日本企業が世界に出て活躍するようになったし、野球やサッカーなどプロスポーツ界でも海外での活躍が報じられるようになって久しい。
だが、社会全体を見るとどうだろう。まだまだ世界を相手にするという意識にはなっていないように見受けられる。
携帯電話業界がまさにそうだという印象を持っているのだが、優れた技術を持ちながら日本固有のビジネスに固執してしまったがために世界市場での競争力を未だ得られない これが今の日本の状況そのものではないだろうか。
海外に多く拠点を持つ企業では積極的に外国人を採用し企業の幹部になるケースも出てきているし、社内公用語を英語にする企業が出てくるなど日本の企業にも徐々に世界へ出て行く動きが出てきている。
ソフトウェアの世界では日本はガラパゴス化しているといわれる。
技術力で米国との間でさほど差はないのに世界を席巻し新しいビジネスモデルをもたらすソフトウェアの大半が米国発なのはどうしてだろう?
日本ではソフトウェアは基本的に国内のシステム向けにプラットフォーム、ソフトウェアが整備され、国内で通用する品質基準が支配的であった。日本国産のソフトウェアでそのまま海外へ戦略的に展開して成功しているのは一部のゲームくらいのもので、他にはあまり目にすることがない。
対して米国では初めから世界を相手にしたビジネスのツールとしてのソフトウェアを作り出していた。Microsoft然り、Apple然り、 Google然りである。
両国の状況の違いはそこにある。
それでも徐々に変わり始めるのは必然で、ラインもマーケットも国内でクローズしていた企業も多くが世界に出てゆかざるを得ない時代はもう来てい る。
「百聞は一見にしかず」でこうした意識を変えるのにもオフショア開発は一役買うはずである。