成功を導くために
不連続ドラマ:とあるオフショアプロジェクト 2
Y君は自社内システムの新規開発のためオフショア開発の計画書を作ることになった。
そして自分が作った開発書についての開発部長の話を思い出している。
部長:みんなオフショア開発っていってるけど、国内でやるのとは、どう違うのかな。
Y:はい。開発拠点が外国であるということは、まずは言葉の壁があるかと思います。
今回検討に上げているヴェトナムについていうと、一般的な会話はヴェトナム語ですが、業務的なコミュニケーションは英語になるようです。
部長:そうか、システム開発部には英語の堪能な人材はいたよな。。。
Y:全員とはいいませんが、まあ、なんとか対応可能だと思います。中には留学経験のあるものもいます。
部長:頼もしいな。ほかにはどういう違いがある?
Y:時差があるので現地の作業時間帯が日本とはずれると思います。
部長:ふむ。以前インドのベンダーを検討したことがあるんだけど、インドのオフショアが伸びた一つの要因として発注元の北米とは昼夜逆ということ があると聞いたことがある。
つまり、寝て起きたらあくる朝には進捗してるといった具合だな。その毎日ノンストップになる時間配分が絶妙に効果的だったということだ。
Y:。。。
部長:日本とヴェトナムでは、せいぜい2時間てところだ。この時差はどうなんだろう。どう思う?
Y:当然、北米対インドとは異なります。むこうが2時間遅いだけですから、ほぼ同時作業です。でも、日々の作業の結果は翌日以降に確認する形になります。
部長:そうだね。エンジニアの気質とか、そういうのはどうなんだろう。やっぱり違うのか。
Y:基本的には違うようです。ソフトウェア業界のモデルとしてはやはりアメリカとか見てますから、非常にビジネス指向の強い考え方で接してくると思います。
無茶な仕様変更とかは対応してくれないかもしれません。
部長:それで業務委託にするわけか。
Y:今までのうちでの開発のいきさつを見ているとすんなりいかないことが多かったように思いましたし。。。
部長:思ったより情報を収集しているようだな。じゃ、ちょっとシステムの概要について手短に説明してくれるかな。
そうして諸々の説明をし終わったあと、部長がY君にこう切り出した。
部長:そもそも君はオフショアの経験があるのかね。
Y:いいえ。ありません。
部長:よしわかった。基本的にこの方向で進めるが、マネージメントはS主任がやる。君はその下で動いてもらいたい。
S主任というのは、開発部の喧嘩屋ともいわれる人である。血の気が多い。他人とは絶対に連まないし、無理があるように思えることでも一度言い出し たら誰の言うことも聞かないクセものだ。
Y:え、Sさん。。。ですか。
部長:まあまあ、そんな顔するな。きっと彼は頑張るよ。
Y:はあ。
部長:あ、あと、業務委託では出せない。れっきとした開発請負でいく。これは会社の都合だ。それ以外はおおむねGOだ。じゃあね。
去っていく部長。その後ろ姿を見送るY君。
「Sさんかあ。まいったな。」
急転直下、とんでもない厄介者と仕事をするはめになったY君。彼の葛藤は解決するのか。
(また続くかも)
言語の壁
重要な話が出てきた。言葉の違いについてだ。
エンジニアたちが話す言葉が理解できれば確かに仕事はできる。ヴェトナムだからヴェトナム語、中国だから中国語、と語学に振り回されては時間が もったいない。
エンジニア間のコミュニケーション言語はそれとは別にあってもいい。英語が役立つならばそれを使えばいい。
実際中学から約十年英語を勉強している我々より英語を使うヴェトナム人の方が英語は一般的に流暢だ。
英語が苦手だからとか恥かきたくないからとかプライドがあって日本語で押し通すスタイルもあるかもしれないが、片言でも外国語に踏み込んだ方が圧 倒的に仕事上有利である。
寧ろ一方的な歩み寄りだけを期待するのははっきり不適切なやり方だと断言する。
時差
時差は両方の地を行ったり来たりする人には身体的に堪えるものだが、作業上で連携をする場合もなにかと制約がつきまとう原因となる。
Y君の話にもあるが、相手の標準時間が遅ければ、作業の終わりを待つことはそもそも無理だ。2時間の時差があるなら、相手が夜8:00でもこちら は夜10:00となり、いつも作業の終了を待っていては生活が破綻してしまう。
相手の時間が早ければその逆になるわけだが、東側を太平洋に面している日本という国の地理的な条件としてそれを考える意味はあまりないだろう。
時差のある相手とはどのように時間を使うか、こちらの時間、相手の時間と時計を二つ書いて簡単な作業シミュレーションをするといいと思う。
作業の流れがおぼろげにでも掴めたら、体制を組むのにも役に立つだろう。
その他
不意の呼び出しでの話にも関わらず、Y君はあらかじめいろいろとベンダーを絞り込むための情報収集をしていたようだ。
部長のちょっと意地悪な質問にも精一杯自分なりの意見も重ねつつ答えている。
これは大事なことだ。
システム開発の世界のことはいずれわかることとしても、実際に仕事が始まってから驚かされるのはむしろそれ以外の側面である。
仕事についての考え方、問題解決のこれがよくも悪くも裏切られていったわけだけれど、大して具体化したイメージがなくともなんとかなるといえばな る。
これがよくも悪くも裏切られていったわけだけれど、大して具体化したイメージがなくともなんとかなるといえばなる。
姿勢、経済観念など仕事としてわりに重要なファクターもあり、さらには一般的な国民はどんな暮らしぶりか、普段何を食べて、何に興味を持っている か、そんな一見取るに足らないような情報であっても、それが相手の具体像をイメージする上で非常に役に立つ。
私が個人的に抱いていたヴェトナム人のイメージは最初こうだった。
1 基本的に貧しく勤勉。
2 アメリカ好きで中国嫌い。
3 牛を飼っている。(笑)
4 街にはたくさんの泥棒。
非常に偏っているといえる。故に点の導きかよくよく人間観察をするべく現地に足繁く通うことになったわけだ。
ちなみに都会で牛を飼っている人を今まで見たことはないが、実際に目にするまで都会といっても少し外れたら郊外になって水牛が田畑を耕している絵 を想像していたのだから我ながら可笑しい。
つてなどあれば、留学などで日本に来ている実際のその国の人たちと会って話す機会などあるといいだろうと思う。
また、金額の話をするのであれば、エンジニア単価の相場なんかは熟知しておいて悪いことはない。
知らないことは寧ろ罪になるだろう。
プロジェクトが始まる前はなにかと忙しい。
その時期に観光ガイドや語学の本を必死に眺めている人がもしいたら、Y君のような人かもしれない。
心の中でもいいから応援してあげたいと思う。