ここ数日の話題はなんといっても、iPhone5とその意外な顛末だろう。
いつかいつかと注目を集め、鳴り物入りで登場したiPhone5。
特に日本ではKDDIがデザリング解禁を宣言し、競合するSoftbankもそれに追随する形でサービス開始を発表と、何かとワクワクする話題でいっぱいだった。
しかし、iPhone5の発表に先立ちiOS6ではGoogleとの決裂がいよいよ現実化するというニュースが入ってきて特にユーザビリティの高い地図アプリはどうなるのかとこれもまた注目されていた。
果たして、結果はAppleにとって散々なものとなった。アキレス腱はやはり地図だった。
Appleオリジナルの地図アプリは見た目や動きは少々Google Mapに似ていても全く別物で、いきなりあるはずのない場所に駅が出現したり、地図の表示がまったく間違っているなど世の中を動揺させることとなった。
ことここに及んでCEOのクックが謝罪のコメントを出す事態にまで発展した。
ただ謝罪しただけではない。訣別したはずのGoogleのMapを使ってくれと懇願するような屈辱的な内容だ。
これはジョブズ復帰前のかつてのどん底時代以来の失敗になるかもしれない。
昨今中国の工場で労働者が暴動騒ぎを起こすなどの暗いニュースも相まってAppleの斜陽を感じざるを得ない。
このままジョブズの後を追って消えていくか、こんなヘマに負けず平然とトップに返り咲くか世界中が注目している。
さて、なぜこうなったか、だ。
Googleとの決裂の一件は、大きな意味があると思う。
Google Mapの搭載をやめて代わりのものを搭載する。これがいかに高いハードルか、彼らにはわからなかったのだろうか。
わかっていたと思う。
実にこの事態を予測して以前からPoly9、C3などの地図関連の会社の買収に動いていたのだ。
ある専門の技術を持つ企業を買い取ってそれでポートフォリオが充実、とすべて円満に解決するわけではない。
自社の持っている製品に外部のテクノロジーを組み込むのはそうたやすいことではない。
多くの優れた技術者を動員して慎重にしかも素早く結果を出さないといけない。出来たときが出来上がり、ではないけれど、時間と資金のかなりの冒険が必要なのだ。
また、トップランナーの背中を追っている身であれば、その背中はしばらくの間は遠ざかるであろことを覚悟しなければならないだろう。
そうはいってもAppleのエンジニアもすこぶる優秀なので、なんとか予定のリリースには帳尻を合わせてGoogle Mapの”代わり”を作り上げた。
これは快挙だ。
ただ如何せん、地図アプリの出来が相手にはるかに及ばなかった。
技術的には勝利でも、戦略的には大敗というわけである。
賢い企業は孫子の兵法よろしく戦略的に負けならば、戦わないだろう。
しかしながら敢えてがっぷり四つに組み戦って負けた。
この戦いにたかが地図、たかがアプリ、という安易な思いがなかったか。
ここが優れた製品を持った企業の弱点。これが落とし穴だ。
デバイスにばかり目を取られていると、そのデバイスが生み出す価値について見誤るリスクがある。
優れたデバイスだから、優れたOSだから、それで当たり前に売れてシェアが確保できる。
iPhoneやiPadのような製品がデバイス単独で売れるものではないのは確かだが、提供するサービスの質が最終的な勝負になることをAppleは忘れてしまったのではないだろうか。
そうして、地図などなくても自分たちの誇るデバイスがあればいい、と考えたわけだ。
これは驕りというよりむしろ自分たちの製品を自負するが上での失敗だと思うのだ。
世の中は移ろい、Appleのマークがついて入ればそれだけで顧客が満足してた、そんな時代は終わってしまった。
何を手に入れるかより何ができるか、サービス面が貧弱ならばAppleであってもあっさり敗北し、逆に魅力的なサービスがあれば弱小ニッチが勝つこともあるわけだ。
むしろ寡占状態が弱まる方が市場としてはよいのだが。。。
この地図アプリの一件はそんなあれこれいろいろなことを考えさせてくれる。